京都地方裁判所 昭和34年(ワ)926号 判決 1963年6月18日
被告 福井相互銀行
事実
本件判決理由(二)、(三)において判断している被告銀行の抗弁はつぎのとおりである。
「(2)仮に改道が原告主張の保証をなしたとしても、被告銀行は改道に対し被告銀行を代理して登記をなす権限を与えたこそあれ、被告銀行を代理して保証をなす権限を与えたことはない。すなわち被告銀行は、顧客をして商機を逸せしめないよう迅速に金融を与える必要上、支店長たる改道に対し抵当権設定登記申請等登記をなす権限を与え、これがため同人を支配人に選任し昭和二七年一一月一二日その旨の登記を了したに過ぎないのである。原告は、滋賀県における著名な金融業者であつて、改道に保証の権限がないことを知りつつ、保証契約をなしたのであり、仮りにしからずとするも、保証の権限がないことを知らないことにつき過失があつたものというべきである。
(3)また仮に改道が原告主張の保証をなしたとしても、同人は、被告銀行の内規に反し、右保証をなすにつき本店に稟議もせず、担保も保証料も徴収せず、帳簿にも記載せず、全く隠密の間に、自己及び第三者の利益を図るため保証をなしたものであつて、かかる行為は、昭和二九年法律第一九五号出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第三条に違反し、同法第一一条の罰則に該当する行為、すなわち強行規定違背の行為であり、しかも、被告銀行は、これがため莫大な債務を不知の間に負担することとなる筋合であつて、金融機関の基礎を危くせられるおそれがあるのである。したがつて、かかる保証行為は、公序良俗に違反するから無効である。」
理由
一 まず被告銀行に対する請求の当否について審究することとする。
(一) (証拠)を綜合すると、
原告は、被告会社に対し、昭和三二年九月二一日から同月二六日までの間に、一、五〇〇、〇〇〇円一口、一、〇〇〇、〇〇〇円三口、七〇〇、〇〇〇円一口、五〇〇、〇〇〇円一口、合計五、七〇〇、〇〇〇円を利息日歩一八銭と定めて貸与し、これが担保として、被告会社から右各貸金を金額とする約束手形の振出を受け、被告銀行支配人兼京都支店長たる(このことは、当事者間に争いがない。)改道精一が被告銀行を代理して右貸金債務につき保証をなしたこと及び前記各手形が数度書換えられて別紙手形目録記載の各手形となり、原告においてこれを適式の呈示期間内である昭和三三年五月二日支払場所で呈示したが支払を拒絶されたことを認めることができる。
(二) 被告銀行は、改道には保証の権限がなくかつこの点につき原告が悪意であつた旨抗争するのであり、なるほど証人改道精一の証言の一部及びこれにより成立を認め得る乙第一号証によると、改道は、被告銀行の内規により、一件一〇〇、〇〇〇円を超える保証については、被告銀行のためにこれをなすことを禁じられていたことが窺われるのであり、したがつて本件の場合においても保証の権限がなかつたものというべきであるけれども、かかる代理権の制限につき原告が悪意であつたとの点については立証がないから、被告銀行の右抗弁は失当である。
なお、被告銀行は、仮に原告が悪意でなかつたとしても、善意たることについて過失があつた旨抗弁するけれども、支配人の代理権に加えた制限が過失ある善意者に対抗し得るものと解すべき根拠はないから、被告銀行の右抗弁は主張自体失当である。
(三) また被告銀行は、改道のなした保証が公序良俗に違反して無効である旨抗争するけれども、原告主張の事実のみをもつてしては、仮にさような事実があつたところで、保証契約が公序良俗に違反して無効となるべきいわれはない。右抗弁もまた失当である。
(四) また被告銀行は、主債務者たる被告会社に弁済の資力があり、かつ執行が容易であることを主張するものの如くであるけれども、被告銀行主張の不動産(しかも他人名義)の存在の主張をもつてしては、右主張として十分でなく、他に右主張に関する具体的事実の主張立証はない。右抗弁もまた失当である。
(五) また被告銀行は、原告が被告会社に金員を貸与するに際し、利息を天引したと主張するけれども、被告会社代表者の尋問の結果(第二回)のうちこれに副う部分は採用できず、他にこれを立証すべき証左はない。かえつて原告本人尋問の結果及び被告会社代表者の尋問の結果(第二回)の各一部並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告が被告会社に当初五、七〇〇、〇〇〇円を貸与するに際しては、一たん貸与した金員中から利息の前払を受けたが、右前払は、被告会社側において計算のうえ任意に支払つたものであること、爾後手形書換の際には被告会社で別に用意した資金により利息の前払がなされたこと但し最後の書換の際には利息の前払はなされなかつたことが認められるのである。してみると天引がなされたことを前提とする被告銀行の主張は失当であり、また任意になされた利息の前払であつても、利息制限法所定の制限を超過する部分は元本の存する限り当然元本の弁済に充当されたものと解すべきであるとの見解を前提とする被告銀行の主張は、右の前提たる見解に左祖し難いので採用できない。
してみると被告銀行は、原告に対し、本件手形の手形金合計五、七〇〇、〇〇〇円及びこれに対する満期の翌日である昭和三三年五月一日から支払の済むまで年六分の割合による法定利息につき保証債務(しかも本件保証は、銀行が顧客のために保証をなした場合、すなわち、保証が付属的商行為たる場合にあたるから、連帯保証債務となる。)の履行として支払をなすべき義務があり、これを求める原告の請求は正当である。